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ハッピーエンドの童話たちが あなたの気分をHappy♪にしちゃいます
週2回(水・土辺りに)更新します

雪だるま
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    きのこと言えば椎茸(日本の昔話より)

    昔々の日本では「きのこ」と言ったら

    「椎茸(しいたけ)」と皆が思うほど、

    椎茸が盛んに栽培され、食べられていました。

     

    「するとなんだ、きのこを献上しろと、

     城の役人が言っているのじゃな」

     

    とある村のお寺の和尚が村人たちの話を聞いて言いました。

     

    「そうなんです。急に一軒の家につき千個と。

     ───それで、困っているんですよ」

     

    村人が今にも泣きそうな顔でそう言いました。

     

    「フム」

     

    と、和尚は頷いてから「しかし今年は大量に採れたのだろ?」

     

    「確かに大量に採れましたが、あれを売ってわしらは生活しています。

     それを取られたら、食うこともできなくなります。

     しかも、もう、今年採れた分は、ほとんど残ってないんです」

     

    村人たちは肩をすくめました。

     

    和尚が詳しく聞くと、村人たちは大量に採れた椎茸を街で売りさばき、

    儲けたお金で、お正月を過ごす為の仕度を買って来たことを話しました。

     

    「で、街から村へ帰って来たところ、

     こんなおふれ(命令)が届いたんです」

     

    村人は和尚におふれの紙を差し出しました。

     

    「今まで、こんなおふれもらったことなかったから、

     どうしたらいいもんかわしらじゃ考えつかないんで

     和尚さまに相談しよう、となった次第です」

     

    和尚はおふれを受け取り、

     

    「そりゃ、困ったのぉ〜」

     

    と言いながら、坊主頭を手でこすって難しい顔をしました。

     

    そして、しばらく俯いた状態で何も話さなくなりました。

     

    村人たちは、無言で何か考えているような和尚の姿を見守りました。

     

    和尚はおふれの書かれた紙に少し目をやりました。

     

    「よし!」

     

    と叫んで、パン、と足のももの辺りを叩いた和尚は

    おふれを村人たちに見せながら話しました。

     

    「見よ、ここには“きのこ”を献上しろ、と書いてある」

     

    村人が頷くと和尚は、

     

    「わしにいい考えがある。お前たちはスマンが、山に生えている、

     木でも草でもなんでいいから苗を大量に摘んで来てくれ」

     

    「苗ですか?」

     

    キョトンとする村人に和尚は、

     

    「さようじゃ、木の苗は“木の子”じゃ、ここには

     “きのこ”としか書いておらん、だから木の子を献上するのだ」

     

    というなんとも危うい和尚の言いぐさを聞いた村人たちは

    驚きながら、

     

    「そんなことをして、和尚さま、大丈夫ですか?」

     

    「案ずるな、策がある」

     

    と、言って和尚が自信ありそうな顔を見せたので、

    村人たちは不安を抱きながらも、和尚の指示に従いました。

     

    そして三日と間を空けず、木の苗ならぬ“木の子”が

    大量にお寺に持ち込まれました。

     

    和尚はそれを弟子たちに持たせ、早速、お城へ向かいました。

     

    お城に入り、献上の品の“きのこ”だと荷物を差し出すと、

    役人がやって来て荷物を確認しました。

     

    役人は荷物を確認するやいなや、顔をゆがめて和尚に聞きました。

     

    「これはなんだ?」

     

    和尚は何食わぬ顔で「きのこでございます」

     

    「きのこ?」

     

    役人は頭を捻りながら、

     

    「どう見ても、苗にしか見えんが、これのどこが“きのこ”なのだ?」

     

    「ハイ、木の苗、すなわち“木の子”でございます」

     

    和尚は涼しい顔をしながらそう言い、頭を下げました。

     

    それを聞いたお役人の顔はみるみる赤くなっていきました。

     

    「バカモン!! 木の苗がきのこのはすがあるまい!」

     

    「おや、それではお役人さま、

     きのことはいったい何のことでしょう?」

     

    和尚はすました声でたずねました。

     

    「きのこと言えば、椎茸のことに決まっておろう!」

     

    怒鳴り声をあげたお役人はさらに続けました。

     

    「それを苗を持って来て、木の子などと屁理屈を言いおって!!

     

    お役人はエライ剣幕でまくしたてています。

     

    和尚はちょっと目を見開いて、驚いたという表情を

    わざとらしく見せてから言いました。

     

    「これはこれは申し訳ありません。とんだ勘違いをしました。

     “きのこ”を献上しろとのお達しだったので、

     わたくし共はそのとうり従ったまでで、椎茸なら

     そう言ってくだされば献上しに参ったのですが、困りました、

     もう、今年採れた分は街へ行って売り払ってしまいました」

     

    そうひょうひょうと和尚が話すので、役人は渋い顔になりました。

     

    そして、しかたなさそうな口調で言いました。

     

    「あなたが和尚じゃなかったら、この場で切っているところだが、

     確かに、椎茸とは言わず“きのこ”とおふれを出したわしらも悪い、

     今回は、これで免じる。但しだ」

     

    と言ったあと、役人は声を低くしてから続けて言いました。

     

    「来年は椎茸を今年の分も合わせて倍の量、献上するように」

     

    そう言われた和尚は、顔色一つ変えずに、

     

    「これはこれは、ご寛大なご采配。誠にありがとうございます」

     

    と、深々と頭を下げ、そして、声を変えずに続けました。

     

    「お役人さま、確認いたしますが」

     

    「なんだ」

     

    「“きのこ”と言ったら椎茸のことで、

     椎茸と言ったら“きのこ”のこと、間違いありませんね」

     

    「クドイ、きのこは椎茸! 椎茸はきのこだ! 間違えぬように」

     

    「分かりました、しっかりここに書いておきます」

     

    と言って、紙と筆を出して書き、役人に見せました。

     

    それを見て役人が頷いたので、和尚は頭を下げて立ち去りました。

     

    村に帰ってから、この話を村人にすると、

     

    「和尚さま、来年は倍だなんて、そりゃあんまりだぁ、

     ワシら今年の収穫量でも生活がやっとなのに、

     もう生きていけなくなります」

     

    村人の悲痛な叫びに、和尚は不敵な笑みを浮かべながら、

     

    「案ずるなと言っておろう、わしに任せろ」

     

    と言ったので、村人たちは半信半疑でしたが、

    和尚を信じることにしました。

     

    そして次の年、お城からおふれが来ました。

     

    今年は、去年の失敗からかちゃんと

     

    “椎茸を一軒につき二千個献上するように”

     

    と書いてありました。

     

    しかし和尚の村では、去年とはうって変わって

    少しの量しか椎茸が採れませんでした。

     

    村人は困り果てました。

     

    ただでさえ収穫が少ないのに、

    去年の倍もお城に献上しなければなりません。

     

    うなだれている村人たちを和尚はなんとか言い伏せて、

    献上の品を持って、お城へ向かいました。

     

    去年と同じ役人が和尚の前に現れました。

     

    「来たな!和尚」

     

    役人は倍の量で大きく膨れ上がった荷物を見て、

    一瞬、嬉しそうな顔を見せ、すぐさま中身を確認しました。

     

    「なっ!!」

     

    確認して、お役人はびっくり!

     

    そこには去年の倍の量の、木の苗(木の子)があったのです。

     

    お役人は烈火のごとく大声を出して、

     

    「これはなんだ! 去年と同じではないか!

     和尚! どういうつもりだ!」

     

    「はい、“きのこ”をお持ちしました」

     

    と、和尚は何ら表情を変えずに淡々とした口調で答えました。

     

    「なに! わしはちゃんと“椎茸”を献上しろと書いたぞ!!

     

    もうカンカンで頭から湯気が上りそうなお役人に対して、

    和尚は表情をそのままに、さらりと言いました。

     

    「はい、ですから、きのこをお持ちしたのです。

     去年、わたしはここでお役人さまに確認しました。

     きのこと言えば椎茸。椎茸と言えばきのこ。と」

     

    「この通り」と言わんばかりに、和尚は

    去年書いた紙を役人に見えるように差し出しました。

     

    「はっ!」と思い出したような声を役人が上げました。

     

    和尚は続けます。

     

    「お役人さまは確かに、きのこは椎茸! 椎茸はきのこだ! 

     と、仰いました。そして今回のおふれには、この通り」

     

    と、おふれを取り出し、

     

    「“椎茸を一軒につき二千個献上するように”と書かれています。

     よって我々はそれに従ったしだいです」

     

    「ムムムムムムムム」

     

    お役人は苦虫を潰したような悔しそうな顔をしました。

     

    そして、しばらく仁王立ちになっていましたが、

    「ちょっと待っておれ」と言い残し、後ろに下がっていきました。

     

    しばらくして、役人は戻ってくると、

     

    「殿がお呼びだ、参れ!」

     

    そう言われた和尚は、シメタ、と思いましたが、

    それを悟られないように平然と頷き、役人について行きました。

     

    殿さまの前に案内されると、和尚は、今年は椎茸が不作だったこと。

    椎茸は村人が生活するのに大切な品物で、それが無いと

    ささやな正月も過ごせないことを話しました。

     

    その話を聞いた殿さまは、大きく頷きました。

     

    そして、

     

    「おもしろいトンチのできる和尚に免じて、

     来年からの椎茸の献上を見直すことにしよう」

     

    と笑顔で言って、来年からの椎茸の献上を

    免除してくれることを約束してくれました。

     

    実は、殿さまがトンチ好きなことを和尚は知っていて、

    殿さまに直接会って話をする機会をうかがっていたのです。

     

    こうして和尚が考えた、木の子の策は、キレイに実りました。

     

    和尚が村に帰ってその話をすると、村人たちは、

     

    「やっぱり、わしらの和尚さまはスゴイ!」

     

    と言って、お祭り騒ぎのように踊って喜びました。

     

     

    おしまい。

     

     

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    雪だるま
    0
      民衆の味方(江戸小話より)

      昔々、盗みを繰り返していた大泥棒いました。

       

      ある時、とても優秀な役人が現れ、とうとう捕まってしまいました。

       

      牢屋に入れられ、明日は処刑される日です。

       

      大泥棒を捕まえた役人が、牢屋の前にやって来て、

      大泥棒に話をしました。

       

      「どうだ、調子は?」

       

      大泥棒は牢屋の中で体を紐で縛られ、

      身動き取れないような状態でしゃがんでいました。

       

      役人の方に目だけを向けた大泥棒は、

       

      「見てのとおりの状態です」

       

      と、静かにと答えました。

       

      役人は、大泥棒の静かな声の中に潜む刃物のような鋭さに

      気付きましたが、動じず、話を続けました。

       

      「最近、ちまたは、おまえの話題で持ち切りだ」

       

      「ほう、それはおめでたいことで」

       

      「おまえが盗みに入った所が大悪人のところばかりだったから、

       『よくぞ盗みに入ってくれた』と庶民は喜んで、

       逆に、おまえが英雄あつかいされてるよ」

       

      「ほう」

       

      と、大泥棒は口の端を上げて不敵な笑みを浮かべると、

       

      「それは、笑える話ですね」

       

      「あぁ、笑える話だ」

       

      役人は表情を変えず、少し声を低くして、

       

      「ところで、おまえは明日には死ぬ。

       死ぬ前に、なにかしておきたいことはないか?」

       

      「そうですねぇ」

       

      と、大泥棒は考えるそぶりを見せてから、

       

      「やりたいことは、全部やりましたので……

       そうだ、辞世(じせい)の歌でもよみましょうか」

       

      「辞世の歌? 随分と高尚な願いだな、まぁいい、

       しっかりと聞いてやろう、どんな歌だ?」

       

      大泥棒は少し笑みを浮かべ

      「うっ、うん」と咳ばらいをしてから言いました。

       

      ♪かかるとき〜 さこそ命の、おしからめ〜

       かねてなき身と〜 思いしらずば〜

       

      目を閉じて聞いていた役人は、

      歌を味わうようにそのままの状態で、

       

      「なるほど、前々から、自分の命はないものと覚悟していたから、

       死を前にしても、命を惜しいとは思わない、と、実に良い詩だ」

       

      大泥棒はニヤリと笑い、

       

      「おほめいただき、ありがとうございます」

       

      と言いました。

       

      役人は、小声で、くりかえし歌を口ずさみました。

       

      「ん?」

       

      何かに気付き、目を見開いて、大泥棒の方に向けました。

       

      「おい、おまえ、今歌ったのはおまえの辞世の歌では無く、

       古い武将の歌ではないか!」

       

      その言葉を聞いて、大泥棒は大声で笑いました。

       

      そして、

       

      「ハハハ、さすがは俺を捕まえた男だ、

       そうさ昔の武将のから盗んだ歌だ!

       どうだ、この歌が俺の最後の盗みだ!

       大泥棒の最後の盗みが歌だなんて、

       洒落てるだろう」

       

      そう言って笑う大泥棒を、役人はあきれたように

      鼻で笑いましたが、心の中では、

       

      (おもしろい奴だ)

       

      と思いながら、その場を離れました。

       

       

      翌日。

       

      大泥棒の処刑の日。

       

      役人は牢屋の鍵を静かに開けました。

       

      「出ろ」

       

      体に巻き付いた紐を引きずりながら、

      大泥棒が牢屋から出てきました。

       

      待機していた二人の若い役人が大泥棒の腕を

      左右からしっかりと掴み、役人を先頭に、

      処刑場へ向かって歩き出しました。

       

      大泥棒は見せしめとして、庶民に公開で処刑されることになっていて

      処刑場は建物の外に作られていました。

       

      暗い留置場の廊下を歩き、役人は処刑場へ通じる扉を開けました。

       

      外の日差しが暗い廊下に差し込んで来て、

      役人は目を細め手をかざしました。

       

      と、それと同時に、大勢の人の声が

      役人の耳に飛び込んできました。

       

      役人は(なにごと?)と、うす目をあけて辺りを見渡しました。

       

      処刑場の周りは、柵で囲まれており、

      中に入って来れないようになっています。

       

      その柵を囲むように、人だかりが幾重にもできていて、

      全ての視線が、こちらに向けられていました。

       

      役人は目を見開き、歩きながらその光景を眺めました。

       

      その群衆がこちらの方を向いてなにか叫んでいます。

       

      「そいつを解放してやれ!」

       

      「その方は俺たちの味方だ!」

       

      「お願い、ゆるしてあげてー!」

       

      と、叫んでいます。

       

      役人は、

       

      (こいつは、こんなに庶民に慕われているのか)

       

      と思い、鼓動が少し早くなる感じがしました。

       

      大泥棒は処刑台に座らせられ、動けないように

      縛り付けられました。

       

      群衆からの叫び声は収まるどころか、

      一段と大きく熱をおびたものになっていました。

       

      役人は大泥棒の目の前に立ち、睨み付けました。

       

      大泥棒も黙って役人を見上げています。

       

      役人は言いました。

       

      「どうだ、この声を聞いた感想は?」

       

      大泥棒は表情を変えずに、

       

      「特に、感想はないね」

       

      「そうか」

       

      役人はそう静かに言うと、二人の若い役人に目配りをしました。

       

      若い役人は腰につけた刀を抜き、大泥棒に向けて構えました。

       

      その瞬間、処刑場の周りからは、一段、いや、さらに二、三段、

      大きな声が上がりました。

       

      その声は、助けを求める声、許しを求める声、役人を罵倒する声。

       

      様々な声が重なり合い、大音響で処刑台に押し迫って来ました。

       

      役人は大勢の訴えを一身で浴びました。

       

      人々のいろんな思いが集まったそれは、

      憎悪の巨大な言霊のように、役人の体に突き刺さって来ます。

       

      若い役人は刀を構え、合図があればいつでも斬りつける

      体勢を整えています。

       

      役人は合図を出すのに躊躇していました。

       

      群衆の叫び声は、大泥棒を逮捕した優秀な役人をも惑わす

      激しい力を持っていました。

       

      役人の目が、処刑台に座っている大泥棒に向けられました。

       

      その目はすぐに柵の向こうの群衆に向けられ、

      次に二人の若い役人に向けられ、

      そしてまた、大泥棒を捉えました。

       

      役人が大泥棒を睨み付けていると、

      ニヤリという笑みが返って来ました。

       

      その表情を見て、役人は少したじろぎました。

       

      こめかみの辺りから、

      大粒の汗が頬伝って流れていきます。

       

      その時です。

       

      大泥棒は大声を張り上げした。

       

      「あー、やかましい! やかましいぃぃぃぃぃぃっ!!!」

       

      その大声は水の波紋が広がるように伝わり、

      まず役人が驚き、二人の役人が驚き、

      そして柵の外側の群衆が驚きました。

       

      処刑場が一瞬の静寂に包まれました。

       

      すぐに大泥棒は叫びました。

       

      「おまえら! なに勘違いしてるんだ?

       俺は、おまえらのために盗んだんじゃねぇ!

       俺が、盗みたくて盗んだまでだ!」

       

      静かに聞いている群衆に、少しの間を置いてから、

      大泥棒は通る声で言いました。

       

      「でもよう、命乞いしてくれてありがとうなぁ」

       

      群衆の中に少し安堵の空気が流れました。

       

      しかし、大泥棒の次の言葉で一転します。

       

      「だがなぁ、勘違いすんなよ、

       生き残れたら、また好きなように泥棒してやる」

       

      そして、その場にいる全員に聞こえるような大きな声で、

       

      「今度は、おまえらの家々に盗みに入ってやる!

       おまえらの身ぐるみ全部盗んでやる!!!

       覚悟しておけぇぇぇぇぇ!!!!!」

       

      その大泥棒の声を聞いて、役人の目に力が入りました。

       

      柵の向こうの群衆は明らかに混乱しているのが、

      役人にも伝わってきました。

       

      二人の若い役人もこちらを見ています。

       

      役人は大泥棒から目が離せなくなり、

      見つめたままでいました。

       

      すると、大泥棒はニヤっと笑い、

       

      「さぁ、殺せ!」

       

      と群衆にも聞こえるような声で言いました。

       

      役人は大泥棒の目を見ながら考えました。

       

      大泥棒が盗みに入ったのは悪人の家ばかり、

      そして、民衆からも慕われている。

       

      しかも、あのような古い歌まで読める頭の良いこいつが、

      本当に、民衆に危害を及ぼす行動をとるのか?

       

      役人は迷いました。

       

      大泥棒は相変わらず不敵な笑みを浮かべて

      こちらを見ています。

       

      役人は考えを纏めようと、目をつむり、

      そして、しばらく考えました。

       

      (いや、違う、逆だ、こいつは悪態をついて、

       この場を納めようとしているだけだ)

       

      役人は、ゆっくりと目を開けると、

      大泥棒の目をしっかりを見据えました。

       

      大泥棒はしっかりとした目で、役人を見ていました。

       

      (よし賭けてみよう)

       

      と心の中でつぶやくと、役人は、大きな声で言いました。

       

      「みんな聞いてくれ!」

       

      ざわついていた柵の向こうの群衆が、徐々に静かになり、

      役人に耳を傾けました。

       

      役人は群衆の方を向いて語りかけるように言いました。

       

      「俺は、こいつに、別の罪を背負わそうと思う」

       

      ざわつく群衆、困惑する二人の若い役人。

       

      役人は続けます。

       

      「コイツは大泥棒かもしれない。

       しかし、俺にはどうしても悪人には思えない。みんなだって、

       さっきまでそう思っていたんじゃないか?」

       

      確かに、と何人かの群衆が頷きました。

       

      「どうやらコイツの望みは、死ぬことのようだ」

       

      役人は群衆を端の方からゆっくりと全体をなめるように、

      目を配ってから、低い声で言いました。

       

      「俺は、コイツの望みを叶えてやるのではなく、

       逆に、生かすことで罪を償ってもらおうと思うが

       みんなはどう思う?」

       

      前代未聞の役人の発言に、群衆は驚いて、

      それぞれがお互いの顔を見ました。

       

      何事か話している群衆もいました。

       

      混乱している群衆もいました。

       

      役人はなにも言わず見渡していました。

       

      群衆はざわざわと混乱しています。

       

      役人の近くにいる、若い役人もお互いの顔を見たり、

      そわそわとしています。

       

      すると、ざわつく群衆のどこからか、

       

      “パチ、パチ”

       

      と、小さな拍手をする音が聞えてきました。

       

      “パチ、パチ、パチ、パチ”

       

      始めは小さな拍手の音でしたが、それは段々と大きくなり、

      やがて、柵を囲む全ての方向からの大きな拍手になりました。

       

      役人は笑顔で頷き、若い二人の役人を見ました。

       

      若い役人も笑顔で拍手をしています。

       

      役人は群衆を見渡しました。

       

      拍手をしているその顔は、

      満面な笑みが浮かんでいました。

       

      役人は群衆に向かって何度も頷いてから、

      若い役人に目配りしました。

       

      二人は大泥棒を処刑台から解いて立ち上がらせました。

       

      大泥棒は驚いた表情をして役人を睨んでいましたが、

      役人は少し目を合わせただけで、視線を外し、

      前に立って、留置場の方へ歩いて行きました。

       

      前代未聞の決断をした役人の背中を、大群衆の拍手が

      後押しするかのように鳴り響いていました。

       

       

      おしまい。

       

       

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      雪だるま
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        泥棒になる最終試験(江戸小話・日本の昔話)

        「今日はおまえが泥棒になれるかの最終試験日だ、

         がんばってやってこい」

         

        師匠に言われて、少年は今にも泣きそうな表情で、

         

        「う、うん、分かったよ、父ちゃん」

         

        と、震えた声を上げました。

         

        むかしむかしのお話です。

         

        先祖代々、泥棒を家業としている一族がありました。

         

        その一族では、子どもが10才になると泥棒の修業が開始され、

        14歳までに、泥棒として家業を継ぐことができる人間かどうか

        判断されます。

         

        少年は今年で14歳になりました。

        今日はいよいよ最終試験の日です。

         

        少年には、同じ時期に修業を始めた、いとこが一人いましたが、

        すでに最終試験に合格して家業を継ぐことが決まっていました。

         

        少年はいとこよりも覚えが悪く、最終試験を受けるまでに

        時間がかかってしまいました。

         

        「コラ! そんなに震えておってどうする」

         

        ブルブルと体を震わしていた少年に師匠でもある父が

        厳しい口調で声をかけました。

         

        「と、父ちゃん」

         

        「師匠と呼べ」

         

        「し、師匠、おいら、やっぱり泥棒は苦手だよう……」

         

        そう言う息子に、父はあきれた表情で首を振りながら言いました。

         

        「ここまできて泣き言を言うな! 大丈夫だ、おまえにも先祖代々

         泥棒の血が流れている。きっとうまくできる」

         

        「そっ、そうかなぁ……」

         

        と、グズグズ言っている息子に、

         

        「グズグズ言ってないで、とっと、行って来い!!」

         

        師匠は大きな声を上げました。

         

        びっくりして、ちょっと飛び上った少年は、

        そのまま勢いよく出かけていきました。

         

         

        さて、少年は怖がりながらも、忍び込む屋敷までやってきました。

         

        夜はだいぶ更けて、月に照らされ、辺りはぼんやりした暗闇です。

         

        恐怖と緊張で手が震えていましたが、がんばって屋敷に忍び込もうと、

        おっかなびっくり塀をのぼりました。

         

        「よいしょっと」

         

        塀を越える修業を、さんざんやったので、

        体が覚えていたらしく、暗闇でも簡単に越えることできました。

         

        しかし、体の震えが収まることはありませんでした。

         

        震える手で、今度は屋敷の戸を開けてました。

         

        「ごめんくださーい」

         

        少年は意識せずに、小声でそう言いました。

         

        緊張しながら屋敷の中をうかがうと、

        シーン、と物音一つ聞えません。

         

        少年は、ゆっくりと屋敷の中に入りました。

         

        「誰かいませんかー」

         

        小声で言いながら、なん歩か歩いたところで気づきました。

         

        この家には、なにも置かれていません。

         

        箪笥も座卓も囲炉裏もなにもなかったのです。

         

        「ここは空き家だ」

         

        少年は呟いて、ホーッ、と大きな息を吐きました。

         

        そして笑顔で、

         

        「空き家なら、泥棒はできないね」

         

        と明るい声で言いました。

         

        しかし次の瞬間、顔を曇らし、肩を落として溜息を付きました。

         

        「でも、最終試験は、もう一軒、あるんだよなぁ」

         

        少年はトボトボと外に出て、

         

        「お邪魔しましたぁ」

         

        と、小声で言って戸を閉めました。

         

         

        次の家は、先ほどよりも少し広い屋敷でした。

         

        ここは屋根裏から様子をうかがってから、泥棒に入るようにと、

        師匠である父に言われていました。

         

        少年は、塀を越えて、壁をシャシャッ、っとのぼり、

        屋根裏に侵入しました。

         

        「おじゃましまーす」

         

        二軒目なので、体の震えもだいぶ収まっていました。

         

        屋根裏に入ると、ミシ、ミシ、っと音を立てながら歩きました。

        音を立てて歩くこの姿を、師匠が見ていたら大目玉を

        喰らうことでしょう。

         

        「えーっと、どこへ行けばいいんだっけ」

         

        と、小声でひとり言を言いながら辺りをうかがっていると、

        下から声が聞こえてきました。

         

        どうやら、おじいさんとおばあさんが会話しているようです。

         

        少年は静かに近づいていき、耳を澄ませました。

         

        「寝つきが悪いばあさんに、いいまじないを教えてやろう」

         

        「なんですか、そのまじないは?」

         

        「土間に、鍋があるじゃろ、その中に持ち物を全部入れるのじゃ」

         

        「持っているもん全部ですか」

         

        「そうじゃ、それで鍋の上に、そのとき着ている着物を被せるのじゃ」

         

        「着ている着物ですか、それは寒そうですね」

         

        「そうじゃな、だから今夜はやらん方がいいな。

         でも、これをやれば、その家に住む者は、

         朝までぐっすりと眠れるということじゃ」

         

        「へぇ、おじいさんはものしりですねぇ〜」

         

        「そうじゃ、でも、これを泥棒に聞かれたら大変なことになる、

         誰にも言っちゃいけないよ」

         

        「ハイハイ、分かっておりますよ」

         

        「では、今日は寝るとするかのぉ」

         

        「ハイ、おやすみなさい」

         

        話し声が途絶えてからしばらくすると、

        二人の寝息が聞こえてきました。

         

        少年はイイことを聞いた! と思いました。

         

        朝までぐっすり寝ててくれるなら、泥棒がしやすい!

         

        そう思い、屋根裏からいったん外へ出て、

        入口から忍び込み直して土間に行きました。

         

        土間には大きな鍋が置いてありました。

         

        「えっと、ここに持っているものを全部入れるんだな」

         

        少年は懐から、短剣やロープ、金属のかぎづめなど、

        持ってきた泥棒道具を鍋の中に入れていきました。

         

        「よし、持っているものは全部入れたぞ、

         で、着物を脱いで、鍋に被せるんだったな」

         

        少年は帯を解いて、着物を脱ぎました。

         

        ふんどしだけの姿になってから、ふと思いました。

         

        「ふんどしのことは、なにも言ってなかったけど、

         付けててもいいんだよなぁ?」

         

        さすがに、これは付けてても良しとしよう、

        と、少年は思い、脱いだ着物を鍋に被せました。

         

        「よし、これで、おじいさんもおばあさんも朝まで起きないぞ」

         

        と、満足そうに声を上げました。

         

        その時です。

         

        「どろぼーーーーっ!!!!!」

         

        という、叫び声が聞こえました!

         

        少年はびっくりして飛び上りました。

         

        「どろぼー!! どろぼー!!!」

         

        大声で叫ぶ声が聞こえてきます。

         

        その声は、ぐっすり寝ているはずの、

        この家のおじいさんとおばあさんの声です。

         

        「どろぼー!! どろぼー!!!」

         

        外に向かって大声で叫んでいます。

         

        「なんで、なんで〜ぇ」

         

        少年は困惑しましたが、とにかく逃げなきゃ、と、

        土間を走り、入って来た戸を力いっぱい開けて、

        一目散に逃げだしました。

         

        そして、後ろを振り向かず、全力で自宅まで走り続けました。

         

        「なんで、なんで」

         

         

        自宅につくと、師匠である父が外に出て待っていました。

         

        息を荒げて、ふんどしいっちょうの姿で帰って来た息子を見て、

        父は溜息を吐いて、

         

        「泥棒に行って、裸になって帰って来るとは……」

         

        と、呆れたように言いました。

         

        少年は父の顔を見ながら、

         

        「裸ではありません。ふんどしはちゃんと付けています」

         

        「たわけーっ!!!!!」

         

        少年は怒鳴られてしまいました。

         

        師匠である父は言いました。

         

        「おまえには、家業を継ぐのは無理だな」

         

        そして、続けて言います、

         

        「まぁ、とっくに気付いてはいたがなぁ、おまえは素直過ぎる。

         今日だって、素直にだまされて来たのであろう、仕方ない奴だ」

         

        そう話す表情は、師匠ではなく父親のものになっていました。

         

        少年は、最終試験不合格の父の言葉を聞いて、

         

        「ありがとう、ございました」

         

        深々と頭を下げました。

         

        顔には安堵の笑みが浮かんでいました、とさ。

         

         

        おしまい。

         

         

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